LECTURE 10

第10回 ゲームの演出と効率予測

ゲームの構造的文脈が内在する「夢中になる要素」とは?

どうやら人が夢中になるゲームを制作する上では、難易度の適切なバランスが重要な要素のようです。では、ゲームはこのバランスをとるためにどのような工夫をしているでしょうか?

ゲームの中におけるバランスの調整の仕方

ゲームのバランスをとるためには、「スキルに応じた適切なバランス」を設定する必要があります。その手法としてお主に3つの方法があります。

①静的で固定型のバランス演出
②動的で変動型のバランス演出
③効率予測型のバランス演出

静的で固定型のバランス演出

「静的で固定型のバランス演出」は、ゲームを完成させた時点で固定化しているバランス演出技法です。

【課題1】「怒首領蜂大復活」をプレイし、そこに存在する「静的で固定型のバランス演出」を考えてみよう。
1:怒首領蜂 大復活

パブリッシャーエイエムアイ
ディベロッパー:ケイブ
ジャンル:シューティング
リリース:2008年
プラットフォーム:アーケード

「ゼビウス」などが切り開いた縦スクロールシューティングは、1990年代後半に「弾幕系シューティング」と呼ばれるムーブメントを生み出した。画面上に表示される大量の敵弾をギリギリで避ける快感を追求する点が特徴となっている。

本作はこのムーブメントを生み出した「怒首領蜂」シリーズの一作で、前作「怒首領蜂 大往生」の戦いから6年後が舞台。敵の攻撃を激化させ、その弾幕を自機の弾幕で相殺する「ハイパーカウンター」や、敵機の発するレーザーを自機のレーザーで押し返す「カウンターレーザー」などのシステムが加わっている。

2008年にはバージョン1.5、2010年には高難度の「ブラックレーベル」がリリースされた。またiPhoneアプリ、Xbox360版もリリースされている。

「怒首領蜂大復活」は「弾幕シューティング」と異名をとるほど、画面上が敵キャラクターの弾でうめつくされる点が特徴です。そのままでは、かなり慣れているプレイヤーでなければ、あっという間にゲームオーバーになってしまうでしょう。そこで本作では、自機の当たり判定をキャラクターのサイズよりも小さく設定することで、バランスがとられています。これによってプレイヤーに対し「ギリギリのところで敵の攻撃をかわした」という快感を提供することに成功しています。

つまり静的なバランス演出とは、実際にゲームから感じられる見た目などから比較して、作用点となる難易度を軽くするような演出といえます。言うまでもなく、現実世界では見た目とあたり判定は同じものです。つまり、これはゲームという拡張身体が仮想世界内で活動する世界だからこそ可能な演出ともいえます。

また、徐々にプレイヤースキルが上昇することを想定し、ステージが進行することによって難易度の負荷を高めるデザイン事態も、静的な固定型バランス演出といえるでしょう。

動的で変動型のバランス演出

「動的で変動型のバランス演出」は、さらに二つの下部要素に分類できます。
「任意の負荷可変型のバランス演出」-プレイヤー自身が任意に調整するバランス
「隠匿フィードバック型のバランス演出」―ゲーム側が自動的に調整するバランス

「任意の負荷可変型のバランス演出」の代表例として上げられるのが、ゲーム開始時にプレイヤーが難易度を調整できる機能です。

これらをシーソー型のモデルで表現すると以下のようになります。プレイヤー自身が自分の操作によって、作用点である難易度を軽くしたり重くしたりする仕組みといえるでしょう。

これに対して「隠匿フィードバック型のバランス演出」は、ゲーム中にプレイヤーのスキルをリアルタイムに解析し、難易度を自動的に調整するものです。レースゲームの「リッジレーサー」(作品ファイル4)では、プレイヤーの順位が下がるほど、自車の最高速度が速くなり、挙動も制御しやすくなる仕組みが存在します。他にも多くのレースゲームでも、対戦時に後続プレイヤーのモチベーション管理のため、同様の仕組みが存在します。これらは「隠匿フィードバック型のバランス演出」の代表例です。

この演出をシーソーモデルで表すと左の図のようになります。

【課題2】「リッジレーサー」をプレイし、隠匿型フィードバックをプレイしながら感じてみよう。
2:リッジレーサー

パブリッシャー&ディベロッパー:ナムコ(現バンダイナムコゲームス)
ジャンル:レース
リリース:1993年
プラットフォーム:アーケード

1994年にリリースされた「デイトナUSA」と共に、テクスチャマッピングを使用した最初期の3Dレースゲーム。俗に「慣性ドリフト」と呼ばれる派手なコーナリング(高速のままコーナーに侵入し、速度をほとんど落とさずに曲がりきる)や、高低差によるジャンプなど、ゲームらしさを前面に押し出した内容が特徴となっている。PS1のローンチタイトルにもなり、本体の牽引に大きく貢献。逆走やデビルカーの登場など、家庭用オリジナルの要素も話題となった。これ以降、はじめにアーケードゲームでリリースし、家庭用オリジナルの要素を加えて移植展開するというビジネスモデルの走りとなった。

なお、これまで同社のレースゲームは、3Dレースゲーム第一号となった「ウイニングラン」をはじめ、フォーミュラータイプのものが主流だった。しかし本作のヒットを受けて、これ以降はロードカータイプのものが中心となっている。

効率予測型のバランス演出

【課題2】「スーパーマリオブラザーズ」をプレイし、ステージごとにどのような意識をもってプレイしているか再確認してみよう。

「スーパーマリオブラザーズ」の「Bダッシュ」と呼ばれるアクションを考察してみましょう。

本作ではスーパーマリオ時にBボタンを押しながら移動すると、より高速で移動できます。短時間でクリアするとスコアがアップするため、上級者にとっては重要なテクニックですが、敵キャラクターと衝突してミスする確率も上昇します。つまり本作では最終的な難易度設定をプレイヤーの判断にゆだねており、操作によってその確率が動的に変化している、といえるでしょう。そしてプレイヤーはこの判断を、自身のリスクとリターン、すなわち効率との兼ね合いで、瞬時に行っているといえます。

ゲームオーバーの科学 -リスクと時間の関係性

この「効率予測型のバランス演出」について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。一般的にゲームでは、難易度がスキルを上回った場合(すなわちミスした場合)、「デンジャー」という状態が発生します。デンジャーの例として「ステージの開始時点に戻される」「装備が減少する」「コンティニュー時にスキップ不可能な演出が入る」などがあります。もっとも影響度の高いデンジャー状態が「ゲームオーバー」であることは、言うまでもありません。

そのためプレイヤーはゲームを再開しても、ミス直前の状態に戻るまで相応の時間を消費しなければなりません。このようにデンジャーとは、プレイヤーに対して強制的に「時間」というコストを払わせる演出だといえます。

このデンジャーの中身は、ゲームが完成した時点で決定しており、ゲームの展開に応じて変更されることは通常ありません。その一方でプレイヤーは、デンジャー状態に陥らないために、ゲーム中にプレイの仕方を任意に変更して、デンジャー状態に陥ってしまうリスクをコントロールすることができます。「スーパーマリオブラザーズ」の例では、Bダッシュをする、しないでデンジャー状態に陥るリスクの高低をプレイヤーに調整可能にしているといえます。

時間とリスクの相互還元性

リスクと時間コストには、一般的に相互還元性がみられます。リスクを最小限に抑えようとすると、時間コストが高まります。一方でリスクを高めれば、時間コストが最小限に抑えられます。しかしデンジャー状態に陥ると、一気に時間コストが最大値となります。ここにジレンマが生まれるのです。

では、この効率予測型のバランス演出をシーソーモデルで観察してみましょう。

ここで重要なのは、ゲームから与えられる難易度の受け取り方を、プレイヤーが力点の場所をある程度の幅で変更することで、任意に変えられる点です。スーパーマリオの例ではBダッシュのスピードの最小と最大などが幅といえますし、この作用点の可動範囲は、ゲームデザイナーが構築するデザイン対象といえるでしょう。

プレイヤーは過去の自分のスキルに応じて、現在どの程度のリスクと時間の効率化が図れるかを予測することが可能です。

前回よりも、より難易度の高い挑戦としてバランスをとりたい場合は、Bダッシュを押し込んだままジャンプしたり、アクセルをふかしてコーナリングに突入することで、必要な時間を低下させると共に、リスクを高められるでしょう。

逆に前回よりも、難易度を低げたバランスとりたい場合は、Bダッシュやアクセルボタンをあまり押さずに挑むことで、必要な時間は高まり、リスクを下げられるでしょう。

これは過去のプレイ経験の蓄積がリスクコントロールに活かせる、すなわち各々のプレイ体験が、個別の意味合いを持つことを意味しています。過去の自分との対戦ができるゴーストモードなどは、これをうまく遊びに転化した例だと言えます。

そして、これらは、”繰り返し”の構造があるからこそ、理解できる特徴といえます。

効率予測を観察してみる。

ここで一度整理をしてみます。効率予測とは下記の条件を満たす行為のことです。そして、それを可能にする構造を効率予測モデルと呼ぶことにします。

①時間が短いけど、リスクが高いもの
②時間が長いけど、リスクが低いもの
①②の間を、体験者自身が予測し、リスクと時間を相互還元して、挑戦を導く行為

この”効率予測”という概念は、どうやらプレイヤーがゲームに没入し、満足感を得るために極めて重要な性質だといえそうです。加えてその作用の及ぶ範囲こそゲームデザイナーが構築しますが、その構造自体を魅力と思う「何か」が、我々人間側の中の性質として備わっているといえます。

【課題3】ゲーム以外の遊びにも効率予測的な現象が確認出来るか考えてみよう。

-「剣玉遊び」
-「白線渡り」

ゲーム並びにゲーム以外における効率予測的な現象を総体的に示すと、次のようになります。 [身体と世界からの評価軸の発見]
[自己バランスの選択と実行]
[過去の記憶と実行結果の交差]

この「評価」「選択」「交差」という構造は、未知の状況に遭遇した際に生物が最適解を求めるための一つの手法である、遺伝子の情報精査の方法を模した表現としています。

さて、ここでもう一度、効率予測を巡る考察をまとめてみましょう。

人間が何等かの”モチベーションを持続させる”ためには、バランスのとれた難易度が必要です。そして効率予測モデルとは、身体が世界から発見した”課題”に対して、自律的なバランス調整をとることが可能となる構造