LECTURE 9

第9回 人がゲームに夢中になる理由

まずは、モチベーション理論に関する基本理論を知ろう

モチベーション理論とは、「人が何に動機を持って特定の活動を維持できるのか」について学ぶ学問です。その全てを網羅することは難しいですが、ここではそのいくつかを表にしました。

名称仕組み備考
S-R理論オペラント条件付けとも言われある特定の条件で何かを与えられることによりその条件を反復するようになる傾向パブロフの犬で知られる
目標設定理論目標を設定し、それを達成した際、それを評価することで行為が持続される明確な目標を立てる管理、MBO管理などがこれらの概念をもとにうまれた。
欲求理論人には、達成欲求、権力欲求、親和欲求があるという考え方「どのように」より「何を」に焦点を宛てた理論
【課題1】これらの考え方を使って、自身がゲームにハマる理由を考えてみよう。

マズローの欲求階層説

アブラハム・マズローは「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である」と仮定しました。そして人間の欲求を低次から高次に向けて、5段階に分類しました。「生理的欲求」「安全と安定の欲求」「集団の所属欲求」「自尊心の欲求」「自己実現の欲求」です。これをマズローの欲求階層説と言います。

【課題2】この理論は、MMORPGなどでよく応用されると言われますが、その理由について考えて見ましょう。

フロー理論

これらの研究はいずれも、人がなぜゲームを「夢中になって」プレイするか、その理由のある側面を説明しています。これに対し、ミハイ・チクセントミハイの「フロー理論」は、人はなぜ「継続的に」プレイするのかという点について焦点を当てた研究が注目を集めています。

「フロー」とはゲームに限らず、映画やジョギング、登山、勉強、作業など、人が何かに没入感を感じている時の状況を指しています。チクセントミハイは人がフローを体験する条件として、行為に対する機会(難易度)と、行為に必要な能力(スキルの高さ)という2つの条件を挙げました。そして、両者のバランスがうまく取れている時に、フロー体験が得られると考察しました。一方でスキルが低く難易度が高いときは不安や心配(本当に自分に達成できるのだろうか、失敗しないだろうか)を感じ、その逆の場合は退屈感や別の不安(もっと別のことをしたい、こんなことをしていて良いのだろうか)を感じると考察しました。

チクセントミハイはまた、フローを体験する上で必要な3つの条件があると指摘しています。「明確な目標の存在」「認知される挑戦の度合いと、自身が持ちうるスキルに対する理解のバランス」「即時性のあるフィードバックを得られるという事実」です。このように、フロー理論は多くのゲーム開発者が「ゲームバランス」と呼んでいるものと重なる要素を多く含んでいます。

・難易度とスキルのバランスがとれていると、フロー体験が得られる
・ゲームバランスと重なる点が大きい

なお、チクセントミハイは、その後の研究でフロー理論をさらに進化させています。まずスキルレベルと難易度レベルのマトリックス化で、体験者の倫理的状態が8項目に分類されました[6]。その上でスキルレベルが高く、難易度が低いときに、プレイヤーは退屈ではなく、安心感をえる場合もあると分析しています。癒やしを求めて難度の低いゲームを遊ぶなどは、その好例でしょう。また「リラックス」と「不安」、「フロー」と「無関心」のように、対立する項目で対照的な感情が発見される場合もあるとしています。

映画の脚本に見られるフロー理論

【課題3】映画「ランボーII怒りの脱出」を視聴し、脚本のどの部分がフロー理論的特性が感じられるかは話し合ってみよう。

このように劇中でランボーが対峙する課題が、徐々に大きくなっていくことが分かるでしょう。これは観客がランボーに感情移入することを容易にさせるために用いられる、演出手段の一つです。改めて振り返ると荒唐無稽とも感じられる展開でも、主人公に立ちはだかる障害の連続に、観客は思わず身を乗り出して感情移入してしまうのです。

また、主人公に立ちはだかる障害が、段階を経てより強力なものになることで、観客側もそれを主人公が倒していくことを、違和感なく受け入れることが可能となります。

ゲームに見られるフロー理論

【課題4】「Devil May Cry 4」をプレイし、フロー理論的概念が用いられているか考えてみよう。
1:Devil May Cry 4

パブリッシャー&ディベロッパー:カプコン
ジャンル:アクションアドベンチャー
リリース:2008年
プラットフォーム:PS3・Xbox360

「Devil May Cry」シリーズの第4弾で、主人公は前作までのダンテから、新たに悪魔の右腕を持つ若き教団騎士ネロとなった。もっともダンテも中盤から使用可能となり、二人の主人公をミッションに応じて交替しながら進めていく。
もともと本シリーズは同社の「バイオハザード」シリーズから派生する形で誕生した。そのため「バイオハザード」がホラーアドベンチャーであるのに対して、本作は三人称視点でスタイリッシュなアクションを決め、銃や大剣で悪魔を倒す、アクションシューティングの要素が前面に押し出されている。

「Devil May Cry 4」の冒頭シーンはチュートリアル形式で進み、プレイヤーは決められた段階を踏みながら、徐々に操作方法をマスターしていきます。最終段階ではフリープレイとなり、これまでに覚えた操作を自由に活用しながら、目の前の障壁をクリアしていくことが求められます。いわば「最終試験」というわけです。

もっとも、このパートもゲーム全体でいえば序章にすぎません。本作はいくつかのボス・キャラクターを排除しながら、全体のストーリーを進めていく構造がとられています。特に序盤から中盤までは、各ボス・キャラクター攻略時に求められる攻撃方法が異なっています。

このように、「デビルメイクライ4」においてもゲーム全体を通して、簡単な操作から複雑な操作を習熟させていくような構造になっています。多種多様の攻撃方法を最初から提示されてしまうと、ユーザーは困惑するでしょう。そのため段階的にスキルを提示するデザインが、アクションゲームにとって重要になのです。

すなわち「行為への機会」(難易度)が段階的に複雑になっていき、それを克服するために求められる行為への能力(スキルの高さ)もまた、複雑化すると共に統合化していく、と言い替えられます。つまり、前半の一連のステージデザイン自身がチュートリアル的な意味合いを併せ持っているとも言えるでしょう。このように本作は、まさにプレイヤーをフロー体験に留めておくことを目的に、入念に設計されていることがわかります。

更なる研究のために

植木理恵 (2013)『ゼロからわかる図解心理学』中経出版 Locke, E.A,, G. P. Latham (1984) Goal Setting: A motivational technique that works New York Prentice-Hall (エドウィン・A.ロック, ゲーリー・P.ラザム 『目標が人を動かす―効果的な意欲づけの技法』松井賚夫、角山剛(訳)
(1984)ダイヤモンド社)
McClelland, D.C (1987) Human Motivation New York Cambridge University Press (デイビッド・C・マクレランド『モチベーション―「達成・パワー・親和・回避」動機の理論と実際』梅津裕良、横山哲夫、薗部明史(訳)
(2005)生産性出版)
Maslow, A,, H. (1954) Motivation and Personality Harper&Brothers Publishing (A.H.マズロー 小口忠彦(訳)(1987)『人間性の心理学』産能大出版)

チクセントミハイ、M(1991)『楽しむということ』今村浩明(訳)思索社

Csikszentmihalyi, M.(1997 )Finding Flow: The Psychology of Engagement With Everyday Life Basic Books