LECTURE 6

第6回 ゲームと世界

第6回目の講義では、ゲームにおける身体と世界のかかわりを考察します。

人間と犬とハエで同じリビングでも捉え方が違う?

ヤーコプ・ヨハン・バロン・フォン・ユクスキュルは著書「生物から見た世界」で、生物をとりまく世界を、作用空間(生物が関与する空間)と、非作用空間(生物が関与できない、または関与することを意識しない空間)に分け、人間・犬・ハエのそれぞれについて、身体機能と作用空間の関係性について論考しました[1] 。

例としてリビングについて考えてみましょう。人間にとって椅子やソファーは座るものであり、テーブルは食器類を並べる空間として認識されているでしょう。本棚は本を並べて収納する空間として認識されているでしょう。

犬の場合、椅子やソファーは座ったり、寝そべったりできる場所として認識されますが、テーブルや本棚などは、自らが作用を及ぼせる空間としては、認識できません。これがハエになると、天井のライトと、テーブル上の食器類を認識する程度でしょう。食べ物が入っていなければ、これらを障害物として認識する程度となります。

このように、自分の身体で作用できる対象(作用空間)は、生物にとって身体の学習に利用され、世界として認知されます。一方で自分の身体で作用できない対象(非作用空間)は、たとえ網膜に投影されていても、認知されることはありません。すなわち前者は記号的意味を持ち、後者は記号的意味を持たないのです。

ゲームだけに見られる作用空間と非作用空間の関係性

この「身体機能と作用空間の関係性」を、ゲームキャラクターとゲーム内空間におきかえて考えてみましょう。

ゲーム内空間は現実世界よりも作用空間(実際にアクションができる領域)がきわめて限定されているのが一般的です。その一方でゲームならではのボタンやスイッチ類などが多数、存在しています。そのため、作用空間と非作用空間が常に見た目通りとは限りません。

【課題1】Playstation2用ゲーム「蚊」をプレイし、作用空間を考えてみよう。
1:蚊

パブリッシャー: ソニー・コンピュータエンタテインメント
ディベロッパー:ZOOM
リリース:2001年
プラットフォーム:PS2

プレイステーションでは既存のジャンルやテーマにとらわれない、斬新なゲームが多数発売された。本作はその系譜につならる一作で、ゲームメカニクス的には一人称視点のフライトアクションだが、自機を「蚊」とすることで、まったく新しいゲーム体験を提供することに成功している。
ゲームの目的は蚊となって人間(山田家の住人)の血を吸うことにある。フィールドを自由に飛行でき、体表の吸血ポイントにダッシュすることで血を吸うことができる。吸血中にたたきつぶされたり、飛行中に殺虫灯や殺虫剤をまいた壁や床に触たりするとライフが減少し、ゼロになるとゲームオーバー。また蚊がいることを人間に察知されるとバトルモートとなる。この場合、人間のリラックスポイントを押してバトルモードを解除しないと吸血ができない。
人間の体表にとりついて血を吸うという設定が3DCGとあいまってフェチ心をくすぐられるプレイヤーが続出した。また美少女の血は吸いたいが、オヤジの血は吸いたくないなど、ビジュアルがプレイヤーのモチベーションに対して大きな影響を及ぼした。舞台をハワイのコンドミニアムに移した続編「蚊2 レッツゴーハワイ」も発売されている。

ゲーム「蚊」では、室内の装飾品などは作用空間としての意味をなしません。なぜなら扉や家具などが、一見リアルに描写されていても、実際に押したり、開いたりすることはできないからです。その一方で人体に血を吸うと血行が良くなったり、ゲームの状況を切り替えたりできる「ツボ」が表示されるなど、実世界とは異なる作用空間が存在します。

【課題2】「スーパーマリオブラザーズ」、「スーパーペーパーマリオ」「スーパーマリオ64」そして「スーパーマリオギャラクシー」における作用空間と非作用空間の違いを比較してみよう。
2:スーパーマリオブラザーズ

ディベロッパー&パブリッシャー:任天堂
ジャンル:アクション
リリース:1985年
プラットフォーム:ファミコン

配管工の兄弟マリオとルイージを操作して、クッパ大王にさらわれたキノコ王国の王女ピーチ姫を救出するために、ステージをクリアしていく横スクロールアクションゲーム。ファミコンのキラーソフトとして、空前の社会現象を巻き起こし、さまざまな続編や派生作を生んだ。「世界一売れたテレビゲーム」としてギネスブックにも登録されている。
ビジネス・アーキテクチャとの関係性でいえば、任天堂の本格的なファミコンオリジナルタイトルである点が特徴である。そのため家庭での繰り返しプレイに耐えられるように、さまざまなステージやアクション、仕掛けが盛り込まれており、アーケードゲームからの移植タイトルとは一線を画している。そのため同じボタンを押してもマリオをとりまく環境に応じて最適なアクションが自動的に繰り出されるようにプログラミングされており、シンプルなボタン操作で多彩なアクションを実現させている。

3:スーパーマリオギャラクシー

パブリッシャー&ディベロッパー:任天堂
ジャンル:アクション
リリース:2007年
プラットフォーム:Wii

「スーパーマリオ64」「スーパーマリオサンシャイン」「スーパーマリオ64DS」に次ぐ3Dアクションマリオシリーズの第4弾。テーマは「重力」で、宇宙に浮かぶさまざまな星をステージに見立ててゲームが展開する。
3Dアクションゲームはステージが有限であるため、どのようなオープンフィールドでも必ず「世界の壁」が発生する。そのため壁際では3Dカメラのめり込み問題が発生し、初心者ユーザーにとって操作の混乱をきたす原因となる。これが球状に設定されたフィールドを次々に移動していく形式を取ることで、どこまで進んでも「世界の果て」がないフィールドやプレイ感覚が実現できた。
またWiiリモコンをもう1つ用意すれば、1プレイヤーの協力や邪魔を出来る「アシストプレイ」が可能になっている。このアイディアは後にWii Uの「非対称プレイ」へと繋がっている。

4:スーパーペーパーマリオ

パブリッシャー&ディベロッパー:任天堂
ディベロッパー:インテリジェントシステムズ
ジャンル:アクションアドベンチャー
リリース:2007年
プラットフォーム:Wii

「マリオストーリー」「ペーパーマリオRPG」につづく「ペーパーマリオ」シリーズの第3弾で、絵本やペーパークラフトのような世界観で、紙のようなペラペラのマリオたちがアクションを繰り広げていく。
もともとスーパーファミコンで発売された「スーパーマリオRPG」の続編として企画がスタートしたという経緯もあり、前2作はアクションRPGとして発売された。しかし本作ではアクションアドベンチャーとなり、ニンテンドー3DSで発売された最新作「ペーパーマリオ スーパーシール」では、ジャンルがシールバトルアドベンチャーになるなど、アクション要素が高まる傾向にある。

ゲームは本の中の話という設定で、マリオたちはフィールド上を冒険しながら、敵を倒したり、さまざまな謎をクリアしながら物語を進めていく。本作では3Dで制作されたフィールドを2D表示に見せるという手法で制作されており、「次元ワザ」というアクションで2Dと3Dの表示を切り替えられる。これによって巨大な障害物が前方から近寄ってくるシーンでも、表示を3Dに切り替えて、その脇を進むなどして切り抜けられる。
また「スーパーマリオブラザーズ」(作品ファイル2)では、「床」が上に乗ったり、下からジャンプしたりして壊せる作用空間として認識できるでしょう。敵キャラクターは危険な存在ですが、上から踏みつけるなどして倒すとスコアがアップする存在として、ひときわ強く認識されることになります。一方で背景のグラフィックは直接プレイヤーが働きかけることのできない、非作用空間として認識されるでしょう。

シリーズタイトルも作用空間と非作用空間に違いが

「スーパーマリオブラザーズ」では、「床」が上に乗ったり、下からジャンプしたりして壊せる作用空間として認識できるでしょう。敵キャラクターは危険な存在ですが、上から踏みつけるなどして倒すとスコアがアップする存在として、ひときわ強く認識されることになります。一方で背景のグラフィックは直接プレイヤーが働きかけることのできない、非作用空間として認識されるでしょう。これが、「スーパーぺーパーマリオ」(作品ファイル4)では、プレイヤーの操作に応じて作用空間が変化します。従来であれば、奥や手前の構造物はたとえグラフィックとして存在していても、プレイヤーは一切干渉できないため非作用空間でした。しかしステージを切り替えることで見えなかったものが見え、また作用できなかったものが作用できるようになるといえます。  一方、3Dアクションゲームである「スーパーマリオ64」の場合、地表はほぼ作用空間と認識できます。一方、ハネぼうしを入手するとき以外、空は非作用空間として認識されます。また、ハネぼおしを入手しても大砲の中に入る、そこから発射して、勢いをつけて、上空にいく、という前提条件があってはじめて空を飛べるという演出を加え、空が作用空間となりえる状況を丁寧に表しています。これに対し、スーパーマリオギャラクシー」では、プレイヤーを取り巻くゲームフィールド自体の捉え方が異なっています。本作品では重力によって球体フィールドなどの反対側にも移動できるため、自分が移動できる可能性のあるフィールドは、その向きにかかわらず、すべて作用空間になるのです。

スコアや、残機表示は、ゲームならではの作用空間

ゲームならではの作用空間として、スコアや残機表示などがあります。これらはプレイヤー自身の操作によって変化できるうえに、内容によって残機が増えたり、ゲームオーバーになったりするからです。そのため身体機能と環境の中間的な存在として認識されることになります。隠しアイテムも同様です。

【課題3】「リモココロン」は、ゲームの進行で作用、非作用空間はどう変化するのか考えてみよう
5:リモココロン

パブリッシャー&ディベロッパー:ソニー・コンピュータエンタテインメント
ジャンル:アドベンチャー
リリース:2001年
プラットフォーム:PS2

悩みをかかえてる人々に、悩みのヒントになりそうなイメージを送って 「ちょっかい」を出すのが目的の神視点ゲーム。ゲームを始めると、さまざまなキャラクターが生活する街やフィールドの俯瞰図が表示される。画面を移動させたり、拡大縮小させながら、悩みを抱えている人々を見つけ出し、そのヒントになりそうなアイテムをドラッグすれば、悩みが解決される。これを繰り返しながらポイントをためていき、制限時間以内にステージクリアとなる行動をおこさせることが目的だ。
グラフックスは2Dだが、拡大縮小に向くようにドット絵ではなくベクターグラフィックスで描かれている。すなわち直線と曲線の組み合わせで描かれており、この独特な「ゆるさ」がゲームのほのぼのとした世界観にマッチしている。

「リモココロン」では、街全体の様子を観察しながら、複数の関係性を指摘することで状況に介入していくアドベンチャーゲームです。 本作最大の特徴は、明確なプレイヤーキャラクターが存在しないことです。あえていえば「世界そのもの」が拡張された身体だとも言えるでしょう。また作用空間と非作用空間もゲーム展開に応じて変化していきます。また、この展開はランダムではなく、事前にゲームクリエイターが設定したシナリオに大きく依存しています。すなわち、ゲームにおける身体と環境の関係性は、ゲームデザインによって動的に規定されると言えるでしょう。

更なる研究のために

Uexkül vn J G. Kriszat (1934)Streifzüge durch die Umwelten von Tieren und Menschen: Ein Bilderbuch unsichtbarer Welten. Berlin: J. Springer (ヤコープ・フォン・ユクスキュル、ゲオルク・クリサート 日高 敏隆 (訳)(1973 )『生物から見た世界』新思索社)