LECTURE 5

第5回 ゲームと視点

3Dゲームにおいてストレス要因になりやすい「カメラ」の問題。快適なプレイ環境を実現するために、ゲーム開発者はどのような工夫をしてきたのだろうか? そして、そのことはプレイヤーの身体的記号と、どのような関係があるのだろうか? 
ゲームにおける視点とは次の2点を指しています。
視点=プレイヤーキャラクターの目や、カメラの位置
注視点=プレイヤーキャラクターや、カメラが見ている対象物
です。

【課題1】前回とりあげた「スーパーマリオ64」を今度は、視点、注視点という観点から再分析してみよう。

「スーパーマリオ64」は3D空間上に広がる箱庭世界を、マリオを自由自在に操作して探索して楽しむ、はじめての本格的な3Dゲームでした。つまり、開発者とプレイヤーがカメラの問題を共有した、はじめてのタイトルにもなったのです。

本作ではプレイヤーは「マリオ」と「じゅげむ」という、2つのキャラクターを操作することになります。このキャラクターを使い分けることで、画面がさまざまに移動します。マリオは3Dスティック、じゅげむはCボタンを押して、それぞれ操作します。すなわちプレイヤーは「マリオと」「じゅげむ」という二つのカメラを使い分けながら、ゲームを進めていくのです。

つまり、プレイヤーの身体的機能がマリオに宿っている場合は、3Dスティックを右に倒すことで、プレイヤーは画面が右に動くことを期待します。逆にじゅげむに身体的機能が宿っている場合、プレイヤーは右側のCボタンを押して、画面が左に動きことを期待します。この操作に混乱するプレイヤーが少なからずいました。

【課題2】次は「ゼルダの伝説 時のオカリナ」を同じく、視点、注視点という観点からプレイしてみましょう。
1:ゼルダの伝説 時のオカリナ

ブリッシャー&ディベロッパー:任天堂
リリース:1998年
プラットフォーム:NINTENDO64

「ゼルダの伝説」シリーズの第5作で、初の3Dゲーム。主人公リンクを操作してフィールドやダンジョンを探索し、ボスキャラクターを倒しながら、ストーリーを進めていく。
本作ではゲーム世界が3Dになったことで、これまで不可能だった立体的な謎や仕掛けが多数盛り込まれ、シリーズに革新的な変化がもたらされた。その一方で3Dになったことで謎解きや操作の難易度が上昇し、さまざまな工夫が凝らされている。
中でも大きな工夫が「Z注目システム」で、カメラを任意の地点や敵キャラクターにロックオンしたまま、細かい移動ができるようになった。矢などの飛び道具もZ注目システムを使うことで、ストレスなく使用することができる。これ以後多くのゲームで同様のシステムが導入されるようになった。
またガイドキャラクターとしてナヴィが登場し、プレイヤーに現在のゲームの目的や、謎解きのヒントなどを提供するなどの工夫も行われている。
なお本作の直接の続編として、64DDで発売された「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」がある。

本作では「スーパーマリオ64」と同じように3Dスティックの操作で、主人公リンクの向きを変えられます。一方で、じゅげむに変わって登場するのがナビィという妖精風のキャラクターです。何か特定のポイントを注視したい時、プレイヤーはナビィを画面上に表示して移動させられます。するとリンクはナビィの場所を目で追いかけ、画面がスクロールするのです。つまり、本作では注視点(ナビィ)を操作することで、視点(カメラ)を移動させていることになります。

いわば、ナビィはGUIにおけるカーソルの役割を果たしていると考えられるでしょう。このときプレイヤーの身体的機能は注視点であるナビィに移っており、3Dスティックの動きとリンクの向き(画面の移動)が常に一致することは、言うまでもありません。

プレイヤーの視点を巡る身体的特性

これらの作品では、視点を巡る身体的特性は、「キャラクター」「カメラ」「注視点」の3段階に分類できます。そして「スーパーマリオ64」でカメラを操作して注視点を移動させていたことから発生する違和感に対して、「時のオカリナ」では注視点自身を操作することで、違和感の解消に務めようと工夫されたのです。

さらにゲーム機をニンテンドーDSに移して発売された「ゼルダの伝説 時の砂時計」では、タッチペンによる操作に移行することになります。これは、すなわち注視点のみを操作する方式に切り替えていることを意味します。

人は視点の位置を自由に変更できる

一方で三人称視点ゲームの中には、常にカメラの位置がプレイヤーキャラクターの斜め後方(ビハインドビュー)に固定されているものもあります。このカメラは強制スクロール形式のゲームで使われることが多く、レースゲームはその一つです。例としてアーケードの体感ゲーム「ラピッドリバー」(作品ファイル2)を取り上げてみましょう。

本作でプレイヤーは筐体にまたがり、実際にパドルを漕ぎながらゴムボートを進めていきます。一方で画面上には常にゴムボートに乗ったキャラクターが表示されています。すなわち、プレイヤーの身体的機能は画面上のキャラクターに宿っているものの、実際にはプレイヤーの斜め後ろ側にある架空の視点から画面を見ていることになります。

しかし、「スーパーマリオ64」のような3Dアクションゲームほどには、違和感なくプレイすることが可能です。というのも、カメラも画面上のキャラクターも同じ方向を向いており、視点と注視点の向きが大きくずれることがないからです。

このように脳は視点を、自分の目から別の地点に、容易に移動させることができます。この現象は

脳は視点の違いを再学習できる

【課題3】「グランツーリスモ」をプレイし、カメラ位置の変更にどの程度順応できるか検証してみましょう。
3:グランツーリスモ

パブリッシャー&ディベロッパー:ソニー・コンピュータエンタテインメント
(本作のヒットを受けて開発スタジオはポリフォニー・デジタルとして独立した)
リリース:1997年
プラットフォーム:PS1

レースゲームは3DCG技術のデモンストレーションという意味合いがあり、1990年代に数多く制作された。本作はその中でも「リアル志向」「実車志向」という点で大きなターニングポイントとなったレースゲームである。公式ジャンルは「ドライビング&カーライフシミュレーター」で、本作のコンセプトを的確に表現している。特に車の光沢を生み出すような環境マッピングをいち早く実現したこと、多数の実在の車種の収録を実現したことなどの要素が相まって、大ヒット作品となった。
ゲームはレーシングドライバーの生活を仮想体験する「グランツーリスモモード」が中心となっており、プレイヤーはさまざまな自動車を乗り換え、ライセンス試験を受けながら、数々のレースに参戦していく。レースで入賞すれば賞金がもらえ、車のチューンナップができたり、より高性能な車を購入することができる。ただしより賞金金額の高いレースに出場するには、より高難度のライセンスをクリアする必要がある。

レースゲームのプレイヤーの中には実際のドライバー視点でプレイしたいという層と、画面上に自動車を表示して操作したいという層が混じっています。ですので、本作でも一人称視点と三人称視点を切り替えられます。三人称視点が実際には存在しない視点ですが、脳は、たとえその視点が現実には存在しない視点だったとしてもその違いを習熟によって克服できます。

これはゲームに限りません。例えば、「逆さメガネ」の実験がいい例です。「逆さメガネ」とは、装着すると上下左右が逆転して見える、特殊なメガネのことです。このメガネをかけて生活すると、最初は日常生活で大変な支障をきたすことになります。しかし、一週間もすると不自由なく生活が送れるようになります。実際には右側にあるが、逆さメガネのために左側にあるように見える物をとるときでも、自然に手が左側に伸びるようになるのです。さらに、逆さメガネをはずすと、約一時間で元の生活に適応できるようになるのです[2]。

体性感覚と制限身体

続いてコントローラと体性感覚の関係について考察を進めていきます。

たとえば、「バトルフィールド3」の場合、キーボードのWボタンが前身、Sボタンが行進、Aボタンが左側、Dボタンが右側への移動となっています。一方、マウスは向きを操作します。これが、なぜ体性感覚に近いのか考えてみましょう。

マウスは、操作した場所を瞬間的に移動します。それは、手や目線の注視点における注目の動きに近いと言えます。従って、その操作のほうが、ユーザーは学びやすいのです。向きを変えたりやモノを取るという行為とマウスのクリックも似ています。従って、移動は方向キー、向きはマウスとしたほうが学習しやすいのです。

更なる研究のために

Corcoran D W J, 1977, "The phenomena of the disembodied eye or is it a matter of personal geography?" Perception 6(3) 247 – 253
太城 敬良(2000)『逆さメガネの心理学―自分の視覚や知覚が信じられなくなる不思議実験室』 河出書房新社