LECTURE 4

第4回 ゲームと身体

ゲームの操作対象となるプレイヤーキャラクター。これはプレイヤーにとって、どのような存在なのだろうか?今回は、人が如何に身体機能を「学習」するかを理解し、どうゲームを扱うかを理解しよう。

【課題1】「ゼルダの伝説 無限の砂時計」をプレイし、プレイヤーが操作しているのはタッチペンなのか、キャラクターなのかを考えてみよう。
1:ゼルダの伝説 夢幻の砂時計

パブリッシャー:任天堂
リリース:2007年
プラットフォーム:ニンテンドーDS

ニンテンドーDS向けに発売された「ゼルダの伝説」の初めてのシリーズで、ペンアクションアドベンチャーと銘打ち、ほとんどの操作をペン一本で行わせている。画面上の任意の点をタッチし続ければ、その方向にリンクが移動し、敵をタッチすれば攻撃、画面上をなぞれば、その軌跡にあわせてブーメランが飛ぶなどのアクションができる。また下画面に表示される地図にプレイヤーがペンでメモを残すこともできる。

タッチペンに操作を絞ったことと、発売時におけるニンテンドーDSの市場特性から、女性をはじめとする新規ユーザーの獲得に成功した。そのためシリーズとしては異例のロングセラーとなり、最終的に2000年以降の「ゼルダの伝説」シリーズで国内最多売上を記録した。また携帯ゲーム機向けに発売されたシリーズ作の中で、国内・海外共に最大の売上本数を記録した。

このゲームではプレイヤーがタッチペンでフィールド上を指定すると、その地点に向かって主人公のリンクが移動します。では、この時にプレイヤーが操作しているのは、タッチペンでしょうか? それともリンクなのでしょうか?

もちろん、実際には「手」で「タッチペン」を操作して「リンク」を間接的に動かしている」といえます。

同じように人は手でコントローラを操作して、ゲームのキャラクターを動かします。これはゲームだけに限りません。PCの操作のように、マウスで画面上のカーソルを移動するなどの行為も同じです。つまり、人は「手」で「デバイス」を操作して、画面上の「データ」を動かしている、と整理できます。では、そもそも人はどう身体性を学習しているのか振り返ってみましょう。

乳児は「ハンドリガード」を通して身体性を学習している

身体感覚とは、脳が後天的に学習した要素の一つであることが、研究の結果わかっています。

乳児は「ハンドリガード」(Hand Regard)で身体感覚を学びます。そのプロセスは以下のとおり。

①脳が「指をしゃぶれ」という「動作信号」を発信する。
②指の動きが「体性感覚」として脳にフィードバックされる。
③指の動きを目で見たり、口に含んだりしたときの味覚などが「特殊感覚」として脳にフィードバックされる。
④動作信号・体性感覚・特殊感覚が脳の中で統合されて、身体感覚が学習される。

逆に事故などで四肢を欠損した患者は、しばしば実際には存在しない四肢が、まるで存在するかのように錯覚したり、幻肢痛と呼ばれる痛みに悩まされたりすることがあります[2]。これはハンドリガードの逆の現象だといえるでしょう。

脳は鏡に映った手の動きによって身体感覚を再学習する

幻肢痛の治療法として提案されたのが「ラマチャンドランのミラーボックス」です。
幻の痛みの原因は、事故の際に感じた激しい痛みによるトラウマなのですが、鏡に映る健康的な左手のイメージを脳にくりかえしフィードバックすることで、この幻を排除することに成功したのです。
この一連のプロセスを「身体感覚の再学習」の過程として整理してみましょう。

①脳が「箱の中に両手を入れて、片側の手だけ動かせ」という「動作信号」を送る。
②手の動きが脳に「体性感覚」としてフィードバックされる。
③鏡に映った像が「特殊感覚」として脳にフィードバックされる。
④動作信号・体性感覚・特殊感覚が脳の中で統合されるが、その過程で通常と異なる感覚が発生する(健常者は片手しか動かしていないのに、両手を動かしているような違和感が生じ、幻肢痛患者は失った手の感覚が呼び覚まされる)

では、この「身体感覚の再学習」のプロセスは、ゲームデバイスのコントロールにもあてはまります。

①脳が「タッチペンで特定の箇所をタッチしろ」と「動作信号」を送る。
②手の動きが脳に「体性感覚」としてフィードバックされる。
③画面上のキャラクターの動きが「特殊感覚」として脳にフィードバックされる。
④動作信号・体性感覚・特殊感覚が脳の中で統合される。

つまり、ゲーム操作も、「動作信号と体性感覚と特殊感覚がゲームプレイを通して、行動に再学習された結果」だと言えます。つまり、文字通りキャラクターを「自己の拡張された身体の一部」として認識していると言えます。

【課題2】「スーパーマリオ64」をプレイし、操作の学習プロセスをこれまで紹介した概念とともに更に再確認しよう
2:スーパーマリオ64

パブリッシャー&ディベロッパー:任天堂
リリース:1996年
プラットフォーム:NINTENDO64

NINTENDO64のローンチタイトルで、コントローラの3Dスティックと共に、その後の3Dゲームに大きな影響を与えた記念碑的ゲーム。
ポリゴンを用いた3Dゲームは、それまでにもレーシングゲームや格闘ゲーム、シューティングゲームなどで存在していたが、いずれもフィールドやアクションが限定的だった(格闘ゲームではキャラクターや世界は3Dだったが、ゲームシステムは2Dスタイルを踏襲していた)。これが本作ではコントローラに設置された3Dスティックを操作して、3Dフィールド上を自由自在に駆け巡ってアクションを行うという、現在の三人称視点アクションに直接つながるスタイルを創出した。
ゲームの目的は他のシリーズと同じく、クッパに誘拐されたピーチ姫を救出すること。一方ステージが平面から箱庭状に広がったことで、レベルデザインも一本道ではなく、探索要素が強まった。また初の本格的な3Dゲームということで、コントローラのCボタンを操作してカメラマン役のキャラクター・じゅげむを操作し、視点を自由に変更できた。

拡張された身体はキャラクターだけとは限らない

それでは理論はここまでにして、さまざまなゲームに見られる「拡張された身体性」について観察してみましょう。

本作では本格的なゲームの前に、敵キャラクターに襲われることなく、自由に操作の練習ができるフィールドが用意されています。ここで走ったり、ジャンプしたり、木に登ったりしながら、コントローラの操作とマリオのアクションを脳内でマッピングしていく様は、乳児におけるハンドリガードに他なりません。何度か失敗を繰り返すうちに、プレイヤーはマリオの操作を完璧にマスターできるようになります。この時、脳による身体の再学習が完了したといえるでしょう。

【課題3】「テトリス」をプレイし、そのときのゲームとプレイヤー身体との関係を考えてみよう。
3:テトリス

パブリッシャー:様々
ディベロッパー:不明
リリース:1984年
プラットフォーム:PC

1984年に当時ソ連の科学者だったアレクセイ・パジトノフ氏らが教育用ソフトとして開発したゲーム。1984年にはじめてプレイ可能な形となった(Wikipediaより)。上方から落下する、4つの正方形で組み合わされたブロック(テトリミノ)を並べていく。隙間なく並べると、その列が消去し、得点となる。できるだけ長くブロックを消し続けることがゲームの目的。
テトリスは登場時から、さまざまな開発者によって修正やルール追加などが行われてきた。そのため2002年にザ・テトリス・カンパニーによって、これらの細かい部分を統一するためのガイドラインが制定された。一方でこのガイドラインを満たしていないテトリスも登場しており、混乱も見られる。

「テトリスのように、自己の分身である明確なキャラクターが存在しないものの場合、プレイヤーが操作できるのは、落下するブロック(テトリミノ)です。すなわちプレイヤーはブロックを自分の身体の延長として認識しているのです。そしてブロックが積み上がって動かなくなると同時に、そのブロックは身体としての認識を失い、次の落下ブロックへと切り替わっていきます。

このようにゲームでは、映画や小説といった他のメディアと異なり、感情移入できる明確な対象が常に存在するとは限りません。そのうえ、身体の延長としての対象が次々に切り替わっていく、という現象すら観察されます。ゲームならではの特徴の一つだといえるでしょう。

更なる研究のために

Koenig, A. J, and M. C. Holbrook(2000) Foundations of Education, 2nd Ed.: Vol. 2, Instructional Strategies for Teaching Children and Youths with Visual Impairments, Volume 2 p.237
藤 和宏 (監修) (2009)『図解入門 よくわかる最新「脳」の基本としくみ (How‐nual Visual Guide Book)』秀和システム p.131
Ramachandran V.S.(2011)The Tell-Tale Brain A Neuroscientist's Quest for What Makes Us Human W. W. Norton & Company
佐々木正人 (1987)『からだ:認識の原点』 東京大学出版会